現在、派遣社員として活躍されているITエンジニアの方は大勢いらっしゃるでしょう。そして派遣社員としての就業に興味を持っている方も、かなり多いのではないかと思います。 転職活動で本当にあった危険な事例を紹介する連載の第1回として、不用品回収 になることを決めたあるITエンジニアが陥った落とし穴について紹介します。
派遣社員になりたい!鹿田さん(仮名)は25歳のネットワークエンジニア。社員200人弱のネットワークインテグレータに勤務し、大手IT企業に常駐してネットワークの保守・監視業務を行っていました。 大学でも理工系の学科を専攻しており、IT関連の知識には自信を持っていた鹿田さん。いずれは大規模なネットワーク構築・設計ができるスペシャリストを目指して、大学卒業時に現在の企業に就職したのです。 どんどんスキルを磨いて、業務でも経験を積んで……と考えていたのですが、配属されたプロジェクトは保守・監視業務が中心のものばかり。入社からすでに3年が経過しましたが、仕事は多忙を極め、ネットワークの設計や構築にかかわるチャンスすらありません。目標に近づけない焦燥感を感じながらの日々です。また、就業当時から「安い!」と感じていた給与も一向にアップせず、イライラは募るばかりでした。 そんなある日、鹿田さんは久々に大学の先輩と再会。一緒に食事をすることになり、興味深い話を聞いたのです。 先輩は卒業後しばらくは正社員として入社せず、派遣社員として働いていました。鹿田さんと粗大ごみ 、ネットワークエンジニアとしてキャリアを積みたいと考えていましたが、いきなり大規模なネットワーク構築・設計ができる大手企業に入社することは難しいと判断し、派遣社員として業務経験も積みながら、資格の取得を目指して勉強することにしたというのです。 派遣での就業なら希望に近い勤務時間や勤務場所を選べるので、勉強のための時間をきちんと確保することができたとのこと。もちろんちゃんと給与がもらえるので、生活の心配もしなくていい。しかも、正社員と遜色ない額で、少し残業があると正社員より給与が高い月もあったと先輩はいいます。 そして、卒業から3年。難関といわれる資格を取得し、そのタイミングで希望する大手ネットワークインテグレータへの転職を見事に成功させたというのです。現在は思う存分自分のやりたいネットワーク構築・設計の仕事をすることができ、充実した毎日を過ごしていると笑顔で語る先輩。そんな話を聞きながら、鹿田さんは心の中で何度も「これだ!」とつぶやいていました。 翌日、早速会社を休んで人材派遣会社へ出掛けた鹿田さんは、想像していた以上にエンジニア向けの仕事があることに驚きました。しかも先輩のいうとおり、時給の高いものが多く、月額では現在の給与を軽くオーバーするものばかり。 鹿田さんの決心は固まりました。 会社を辞めて、当面は派遣社員として働き、経験を積むのです。ただ目的はあくまでもスキルアップして、自分の希望がかなえられる大手ネットワークインテグレータに転職すること。ずっと派遣社員でいるつもりはないので、3年といわず、1年で難関資格を取得して再び転職活動をすることに決めました。 ようやく見えてきた希望の整体師 に、鹿田さんの心は弾むばかりです。 すぐに現在の会社へ退職の意思を伝えると、タイミングよく派遣会社から声が掛かり、派遣社員として順風満帆なスタートを切ることになりました。
最高の環境が悲劇の始まり?鹿田さんが派遣されたのは、医療系企業の社内システム運用担当でした。居心地は最高です。 社内ネットワークの管理からPCの操作方法の案内といったヘルプデスク業務までを幅広く受け持っていましたが、スタッフは鹿田さんを含めて3人おり、忙しすぎない絶妙の業務量。適度に残業も発生して、給与が30万円を超える月もありました。 会社にはいろいろな部署にたくさんの派遣社員がいて、年齢も近い仲間ばかり。週末になるといつも飲み会が催されます。業務に追われていたこれまでの生活から一転、楽しい日々が続きました。 すぐにでも資格の勉強を始めようとしていた鹿田さんでしたが、そのうち「給与もアップしたし、条件的には希望どおりになったのだから焦る必要もない。きっとこれは神様が忙しすぎた自分にご褒美をくれているんだ。半年くらいは骨休めをして、リフレッシュしてから勉強をした方が能率もいいはず」と考えるようになっていたのです。 そのまま半年どころか1年が過ぎようとしていたとき、突然事件は起きました。 派遣先の企業がほかの企業に吸収合併されることになり、業務の見直しの必要性から大量の派遣社員の契約が終了されることになったのです。終了対象者の中には鹿田さんの名前もありました。 まったく想定外のアクシデントにパニックになる鹿田さん。幸いにも派遣会社には翌月からの新しい仕事を用意してもらうことができ、無職になってしまう事態は避けられたものの、あらためて派遣社員として働くことのリスクを実感。やはり安定した正社員として働きたいと、あわてて転職活動を開始することにしました。
1年間、目的を忘れて過ごしたツケが目指していた資格の取得を果たせなかったどころか、まともな勉強さえすることなく過ごした1年のブランクはあまりに大きいものでした。ところが鹿田さんの中には「せっかくステップアップを狙って退職をしたのに……」という気持ちばかりが強く残っており、前職の企業と同等かそれ以上の規模の企業への応募を繰り返してしまいます。 当然、面接のオファーすらない連敗地獄。鹿田さんは精神的にも追い詰められていきます。 すっかり意欲を失い、派遣の仕事も欠勤が目立つようになってしまった鹿田さんには、派遣先からの契約終了が続きました。結局、この後の1年間で実に3社を転々と渡り歩く結果になってしまったのです。 転職活動も相変わらず成果のない日々が続き、途方に暮れている鹿田さんに、ある日、あの先輩から電話がありました。 私が鹿田さんとお会いしたのは、涙にくれる鹿田さんを見かねた先輩が、人材紹介サービスについてアドバイスをしたことがきっかけでした。 人材派遣には、最近ではエンジニア向けの求人も多く、給与などの条件面を見ても正社員と遜色ない案件が並びます。実際に、育児や介護、仕事以外の趣味や活動と両立するために、派遣社員として働き続けるという選択をしている人も少なくありません。 しかし鹿田さんは、スキルアップをして最終的には希望する企業の正社員になるために派遣社員として働き始めたはずです。 給与や勤務時間といった条件面を充足させるための転職ではなかったにもかかわらず、目標がいつの間にか、条件面での満足にすり替わってしまっていることに気付けなかった。それが鹿田さんの転職を大きく狂わせてしまった原因でした。 そこで私は、まず鹿田さんに自分が目指していた理想像、ネットワークの構築・設計を責任持って担当できるような高いスキルを持ったITエンジニアになりたいということを、そしてそのために多くの業務を経験しながら資格を取得するという目的を思い出してもらいました。 鹿田さんがモチベーションを取り戻したことを確認してから、企業の規模にはこだわらず、たとえ給与など条件面が派遣社員のときより下がったとしても、しっかりとネットワークエンジニアとして成長できる環境を得ることを最優先に考えようと提案。最初は前職からのキャリアダウンをイメージして難色を示していた鹿田さんも、派遣社員時代に得た教訓を生かそうという呼び掛けに応えて、提案を受け入れてくれました。 もともとはまじめで、ITエンジニアとして高い志を持っている鹿田さんです。過去に経験した業務の内容と人柄を丁寧に企業側に伝えることで、どうにか面接のチャンスを与えてもらえないだろうかと考え、アピールを続けました。すると、社員20人ほどの小規模ながら、質の高い業務内容で業界でも高い評価を得ている企業の社長が、ぜひ鹿田さんに会ってみたいと声を掛けてくれたのです。 この社長、社員に対する面倒見がとてもよく、経験が少なくても意欲のある若者を採用して、しっかりと成長させてくれる方。「鹿田さんのことを聞いたら放ってはおけないのでは……」と密かに期待し、今回の転職活動の経緯をすべて正直に知らせておいたのでした。 応募はしたものの、面接時にはまだ、前職よりも規模の小さい企業に入社することに迷いがあった鹿田さんに対して、社長は「派遣社員時代の苦い経験を生かせるように、もう一度、一からじっくりとやろう」と熱心に語り掛けてくれました。最後には鹿田さんも社長の熱意に打たれて入社を決意。ステップアップを目指してスタートした、長過ぎた転職活動にようやく一区切りがつきました。 鹿田さんはその後、忙しい業務の合間にもしっかりと勉強を続けて、目指していた難関資格の取得に成功。目標のネットワークスペシャリストに向かって、着実に前進しています。 「あの経験がなかったら、いまでも目標なく派遣社員でいたかもしれない」。いまでも時々当時を振り返って、自分自身を励ます材料にしているそうです。
派遣自体に良しあしはない派遣社員として働くこと自体に、良い悪いの評価はありません。派遣社員として働くことにもメリット、デメリットが存在します。ほかの人が成功したからといって、誰もが成功するというわけではありませんし、その逆のこともいえます。 まずは目指している将来の自分の理想像についてよく考えましょう。それに近づくためにはどんなアプローチの方法があるのか、その方法にはどんなリスクが存在するのか、自分には適しているのかどうかなどをしっかりと見極めて、上手に活用することが肝心なのです。 しかし、多くの可能性に目を配るのは、1人きりでの転職活動ではとても難しいと思います。そこで私たちキャリアコンサルタントを利用し、目標を互いにリマインドしながらさまざまな選択肢を一緒に検討することをお勧めします。